日本一の手袋産地である香川県東かがわ市の手袋メーカー、株式会社フクシン。1977年に手袋問屋として創業し、現在は扱う商品の8割を自社で企画。数年程前から取り組んでいるサステナブルなものづくりが、海外をはじめ各所から注目を集めています。
今回、取り組みの経緯について福﨑二郎代表取締役に話を伺いました。
福﨑 二郎
株式会社フクシン代表取締役。大学卒業後一度は保険会社に勤務するが、先代社長の意向を受け2011年に同社を継承。「たくさんの笑顔を紡ぐ」を企業理念に掲げ、サステナブルな手袋「ecuvo,」をプロデュースする。
企業理念の先に、サステナブルな取り組みが生まれた
元々ぼくたちの会社が扱っていたのはファッション手袋です。気温が下がり、寒くなった時に必要となるもの。ですが、地球温暖化の影響で、暖冬が多くなり、手袋のニーズは薄れてきていました。スマホ操作をするにも手袋って邪魔ですし。環境の変化を受け、ぼくたちも変革を求められていました。
以前は神頼みをしていたんです。「今年は寒くなりますように」って(笑)。ですが、自分たちでもできることを探そうと、2015年あたりからインナーブランディングに取り組み、「たくさんの笑顔を紡ぐ」という理念ができました。そこから試行錯誤の結果「すべてに優しくなること」が大事なんじゃないか、という考えにたどり着きました。
お客様も取引先も、商品も、大きな話をすれば地球にも優しくなれないかな、と。幸いぼくたちはきれいな海と山に囲まれた東かがわ市ではたらいています。環境のことに意識が向くのは自然な流れでした。社員を集めて週に一度企画ミーティングをおこなっているのですが、そこで環境のことを勉強していたらSDGsという考え方に出会いました。これがまさにぼくらがやろうとしていることだ、と勉強を進めて、一歩ずつ取り組みをはじめていったんです。
使い捨てだった社員食堂の割りばしを洗って再利用できるものにしたり、トイレットペーパーも芯のないものに変えたり、再生紙を使うようにしたり…。みんなが健康的にはたらけて笑顔になれればいいと、インフルエンザの予防接種や健康診断の補助も半額だったのを、全額補助に変更したりしました。
「つくる責任」をカタチにしたサステナブルブランド「ecuvo,」
SDGsを勉強する中で、ぼくたちの活動や姿勢を商品というカタチにできないか、と考えはじめました。「つくる責任」は実感していましたから。これが3年前のことです。「たくさんの笑顔を紡ぐ」という理念に沿って、「ecuvo,(エクボ)」という名前を思いつきました。笑顔の象徴です。調べてみたら商標登録も空いていましたし、海外の言語でも変な意味にはなりません。
名前通りのいいものをつくらないと、笑顔は増やせません。糸屋さんにも協力してもらい、再生素材の開発に取り組みました。一部のターゲットにしか届かない高級路線もよくないし、使い心地を犠牲にするわけにもいかない。色々と試して、デッドストックの再生ウール50%、再生ポリエステル50%の配合になりました。やわらかく、あたたかく、型取りもきれいにおさまるバランスでした。
「自然にやさしい素材」はできましたが、使い方にまで踏み込めないかと皆で話し合い、「永久修理保証」「片手片足販売」「永久定番」「ゼロゴミ編み立て法」「メンズ・レディース・キッズ同一デザイン」と、6つの特徴をコンセプトにまとめていきました。思い入れを持って、末永く愛してもらえるものづくりの提案です。
工場を動かす電力にも、再生可能エネルギーを
「ecuvo,」のリリースに向けて企画会議で話し合う中で、新たな疑問が社員から上がってきました。工場で手袋をつくっている機械は電力で動いています。でもその電力をつくるのに二酸化炭素をたくさん排出してしまっているのはどうなのか。という懸念でした。たしかに、工場電力をクリーンなものに変えられればその影響力は小さくない。調査の結果、新電力が再生エネルギープランを提供していることを知り、2020年12月から契約を切り替えることにしました。また、同じころに本社屋根に太陽光発電パネルの設置も検討し始めました。この二つの併用で、100%再生可能エネルギーでの工場運営ができる見込みが立った訳です。
今、太陽光発電装置の設置は終わり、申請の許可が下りれば2021年4月頭には自社内の25%は太陽光による電気でまかなえる予定です。契約を再生可能エネルギープランに変えることで、月々の電気代は上がってしまいましたが、100%再生可能エネルギーで「ecuvo,」をつくることができれば、ぼくたちの姿勢はもっと伝わるんじゃないでしょうか。紆余曲折ありましたが、これがいいと判断しました。
「ecuvo,」を通じて、海外にも笑顔が紡がれる
2020年2月、「ecuvo,」のリリース後、様々な方から問い合わせを受けるようになりました。今回の様にサステナブルに関する取材も受けますし、ポップアップショップから「ecuvo,」のコンセプトでデザインコラボの打診もありました。「ecuvo,」ブランドは、ぼくたちの企業としての姿勢を知ってもらうためのアウターブランディングでしたから、手ごたえもあります。実は、海外からも問い合わせがありました。マンハッタンのチェルシーにあるセレクトショップでも扱いたいとラブコールをもらったんです。送料だけで赤字になるのですが、こうして海外からも注目してもらい、ぼくたちの姿勢が伝わっていくことは歓迎したい。少しずつですが、こうした反響を大事にして「たくさんの笑顔を紡ぐ」という理念を大事にしていけたらと思っています。
秋冬モデルも、2021年2月にシーズン終了です。反応がいいお客様は次の春夏モデルも期待してくれています。とはいえ、「永久定番」としてデザインを変えないのも「ecuvo,」のコンセプトの一つ。毎年新デザインを出すアパレルの商習慣とは逆行しますが、これまでの贖罪の想いもあり、バーゲンセールでの値引きはしないようお願いもしているところです。
ちなみに、修理依頼をいただいたお客様も少数ですがいらっしゃいました。秋冬モデルで4件。そこまで高級な商品でもなく、送るための手間もかかります。それでも直して使いたい、と「ecuvo,」に愛着を持っていただけるお客様が、少しずつでも増えていったら嬉しいですね。
【SDGs推進委員会からの質問】
今後、企業が取り組むSDGsって、どんなことをしたらいいのでしょう?
実はぼくは、週に2、3回朝ランニングをするんです。プロギングというんですけど、ゴミを拾いながら走るんです。ぼくたちの街は1キロも走ると海がありまして、ゴミを拾いながら海沿いを走っています。海をきれいにするため、とか周りから評価されるため、とかの目的はありません。ただ、自分が気持ちいいからなんですよね。走りながらなので、すべてのゴミを拾いきれるわけじゃありませんし、途中で袋がいっぱいになったら拾えないゴミもあります。それが次回また走るためのモチベーションにつながるんです。前回拾えなかったあのゴミを拾えたら気持ちいいな、って。二日酔いで辛い朝でも、動き出すきっかけをくれます。
他の方たちにアドバイスはできませんが、ぼくたち田舎の小さな企業でも、できることはたくさんありました。事業をやっている以上、次の世代に資源を引き継ぐことは大切なことです。地球温暖化が進んで灼熱になって、朝ランニングできない環境になったらイヤじゃないですか。ぼくたちは四季に生かされています。ぼくたちの商品が売れる冬は、こたつに入って紅白見ながらみかんを食べて、春は桜の下でお酒を楽しむ、夏はスイカを食べて海水浴、秋には栗がなって…。こうした日本の四季を未来のこどもたちにバトンタッチしていけたら嬉しいですね。そのための行動を、それぞれが自分事として考えてやっていければいいんだと思います。
届けたいメッセージはありますか?
「ecuvo,」をどんな想いでつくっているのか、お伝えできたかと思います。ちょうど、春夏モデルが出るタイミングですが、今回のモデルは、フードロス問題に貢献できればと思いコンセプトを考えました。オーガニックコットン100%の素材を、破棄される食材から抽出した染料で染めたフードテキスタイルなんです。その上、2021年4月以降は、100%再生可能エネルギーで動いている工場でつくられた商品になります。これを読まれた皆さんも「ecuvo,」を手に取って笑顔になっていただけたら嬉しいです。
ecuvo,
www.ecuvo-japan.com/
手袋のまち、東かがわで1977年から手袋を作り続ける株式会社フクシンが立ち上げたサステナブルなブランド「ecuvo,(エクボ)」。
自然豊かな環境にいるからこそ感じる地球温暖化や環境の変化。ちゃんと四季のある日本であってほしいという願いを込めてecuvo,は誕生しました。
株式会社フクシン
〒769-2705 香川県東かがわ市白鳥78-1
Tel. 0879-25-2285
今回お話を伺った「株式会社フクシン」様は、"企業のSDGs取り組みを支援する"一般社団法人 日本ノハム協会の、メンバーシップ企業です。